Fleur de Noir

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大自爆大会ではやはり地力がものをいう

平昌五輪男子シングルは、色んな意味でメモリアルな大会となった。

まず世界的に見ても、羽生結弦がディック・バトン以来66年ぶりの2連覇達成。

オリンピックで二連覇というのは、他競技ではそう珍しいことではない。

特に夏季五輪では、女子レスリングの吉田沙保里伊調馨をはじめ、野村忠宏北島康介など、パッと思いつくだけで日本人にもかなりの連覇達成者がいる。

が、ことフィギュアに限って言えば、男子シングルだけでなく、女子シングル・ペア・アイスダンスを通じて、少なくとも近年では思い当たる選手がいない(アイスダンスにはテサモアという伝説がいるが)。

フィギュアスケートは他競技に比べても選手寿命が短く、更にトップクラスで活躍できる期間というとかなり少ない。

近年は技術レベルの進歩が激しく、ピークを過ぎた選手が世界トップの滑りを維持し続けるのは至難の技である。

正直羽生も、競技人生の一番高い山は越えたかなと思っている。

色々と病気や怪我に見舞われはしたが、やはりソチ~平昌までの3シーズンが彼のピークだったのではないだろうか。

NHK杯で傷めた右足首が本当の本当に完治すれば分からないが。。。

それでも元が凄すぎるので、多少下り坂に差し掛かっていても、まだ他の選手よりは高い位置にいた。

フィギュアスケートを長年取材している田村明子氏が、「時が満ちている選手は、どんな困難があろうとも最終的にはそれで良かったという結果になる」と著書で書いていたが、羽生も怪我をしたことが結果的に奏効したと言えよう。

もちろん、無傷の羽生が4回転ルッツを含む4種類(TL、S、Lo、Lz)の4回転を決め、世界歴代最高得点を更新して優勝する、というコースもあっただろう。

しかし、その構成を組んだ場合、例え万全の状態であってもミスをして銀メダル以下に終わる確率の方が高かっただろう。

4種類の4回転を入れた高難度プログラムよりも、2種類の4回転をしっかり決める方が、金メダルを獲る確率は高い。

そして怪我をしたことで、彼自身も迷いなく確率の高いコースを選ぶことができた。

田村氏の言葉を借りれば、“羽生結弦の時は満ちていた”のだ。

 

更に、宇野昌磨の銀メダルによって、日本フィギュアスケート史上“初めてづくし“の大会となった。

  • 初の二連覇達成
  • 初の同一選手による二大会連続メダル
  • 初のダブル表彰台

私がフィギュアスケートを見始めた頃(約26年前)には、こんな時代がやってくるなんて考えてもみなかった。

当時、私たちは専ら海外のスケーターに対して目をハートにしていたのに、今や日本人スケーターのファンが世界中にいるのだ。

そしてもう少しこんな時代が続きそうだと思わせてくれる選手が、世界選手権で花を咲かせた。

友野一希である。

SPでは自己ベストを大幅に更新しての11位。

SP5位の宇野との順位の合計が16となり、正直3枠は絶望的だと思っていた。

しかし、フリーでもPBを大きく更新してまさかの5位入賞。

特にフリーのウェストサイド・ストーリーの躍動感は凄まじく、現地に応援に行った日本人はもちろん、イタリアの観客からも多くの拍手を受けていた。

バンクーバー鈴木明子が滑ったウェストサイド・ストーリーにも匹敵する“名ウェストサイド・ストーリー”だ。

1つ下には山本草太もいるし、来季から二人ともGPSに本格参戦するだろうから楽しみである。

 

今大会、男女ともに五輪後の世界選手権にありがちな大自爆大会となった。

というか五輪後に限らず、近年の男子シングルはどうしても演技の良さよりも失敗の数で順位が決まりがちである。

しかし平昌では、失敗はあっても概ねどの選手も素晴らしく、特にメダルを獲った3選手は、ミスを忘れさせるような演技だった。

一方世界選手権では、平昌での凄まじいフリーを超える完璧なプログラムを演じたネイサン・チェンを除いて、トップ選手が次々と自爆していった。

銀メダルの宇野も転倒3回、ボーヤンはなんと転倒5回でDeductions-9がついてまさかの19位。

そして日本、アメリカ、ロシアがそれぞれ3枠を獲得するという、近年稀に見る結果になった。

 

宇野が銀メダルを獲得し、友野が健闘した日本は余裕の3枠。

コリヤダが3位に踏みとどまったロシアも、アリエフが7位まで順位を上げて3枠獲得。

そしてヴィンセント・ゾウは自爆して14位まで順位を落としたが、マックス・アローンがサクッと11位に入ったアメリカも3枠獲得。

元々2枠しかないロシアはともかく、日本・アメリカともにメダリストの次に枠取りに貢献したのが各国の3番手以下の選手であったのは興味深い。

友野一希は昨年の全日本4位で、羽生の怪我による欠場、さらに無良の引退で順番が回ってきた。

無良としては、最後に世界選手権に出てから引退、という道もあったと思うが、平昌五輪を見ながらすでに引退を決めていたという。

補欠の補欠で出場した友野が、まさかここまでの働きをするとは誰も予想していなかったであろう。

マックス・アーロンに至っては全米で6位にも入っていない。

アメリカ国内の事情はよくわからないが、9位のマックス・アーロンが出場し、上位選手が次々と脱落したために11位に食い込んでいる。

両国の選手層の厚さ、そして大自爆大会にあってもギリギリのラインで踏み留まる地力が功を奏し、メダル獲得や枠取りに繋がったと言える。

 

平昌五輪は、“ミスをいかに減らすか”ということ以上に、“ミス以外の部分でどれだけ得点を伸ばすか”という闘いだったと思う。

真4回転時代真っ只中の現在、ミスのないパーフェクトな演技というのはなかなかどうして難しい。

こんな時代にメダルの有無、そしてメダルの色を分けるのは、ミス以外の部分をどう滑ったか、なのかもしれない。

そして来季から採点のルールが変更となり、ジャンプの基礎点が軒並み下がって、GOEが11段階になる。

ますます“ミスの数”のはもちろんだが、“ミス以外の部分の伸びしろ”が結果を左右するようになるかもしれない。