【劇評】『アメリ』が新しい世界に踏み出す時、“まゆゆ”は“渡辺麻友”になる
ミュージカル『アメリ』@天王洲銀河劇場見てきました。
オドレイ・トトゥウの映画版はかなり昔にレンタルして見ていたが、細かいストーリーはほとんど覚えておらず、ミュージカルになっていることも今回の日本公演で初めて知った。
そして主演が渡辺麻友!
AKB48在籍中の活動から考えて、まさか卒業後第一作にミュージカルを選ぶとは思わなかったのでかなり度肝を抜かれた。
若干の不安を抱えつつ見に行ったが、“AKB48の渡辺麻友”が卒業後に初主演を飾る作品として、これ以上相応しい作品はなかっただろう。
『アメリ』は、両親から人との交わりを断たれ、実家を出て独立した後も閉じられた世界、ある意味で守られた世界で生きてきた主人公のアメリ・プーランが、初めて恋を知ることで扉を開けて新しい世界に踏み出していく物語。
AKB48という“閉じられた箱”の中で、ある意味ではとても守られて活動してきた“まゆゆ”が、一人の“渡辺麻友”という女性として第一歩を踏み出す姿に重なる。
しかもまゆゆは、AKB時代まさにアイドルの王道をいくような、超正統派だった。
その彼女がどれだけの“アイドル”という名の仮面を被っていたか、想像に難くない。
序盤、家を出て一人でパリで新しい生活を始めるシーン。
そしてラスト、恋人に心の扉を開けて新しい世界に踏み出すシーン。
それぞれで歌われたミュージカルナンバーが、アイドルから脱皮し、自分の力で女優への道を切り開いていこうとする渡辺麻友の人生とシンクロする。
歌い方もしっかりミュージカルの発声に変えてきて、もはやアイドルの面影はない。
正直ここまで仕上げてくるとは想定してなかった。
一方で、ミュージカルそのものの総合評価としては「普通……。」という感じ。
一部のキャストは歌詞が完全に聞き取れず、ストーリーや設定の理解に苦しむ部分があったし、全体的に演者の実力にバラつきがあり、コーラスのまとまり感が少ない。
渡辺も、一部高音域が出ていなかったり、ハーモニーがおかしなところがいくつかあった。
逆に低~中音域で歌う部分は迫力充分、中盤の山場でのソロナンバーは圧巻だった。
他の演者との兼ね合いもあるので、簡単にキーを上げ下げするわけにはいかないだろうが、多分音域が合っていないのでそこ(高音)はもう少しアレンジでカバーできなかったものか?
そして驚いたことに、渡辺麻友の次の出演作もミュージカルだった。
AKBメンバーの卒業後の道は様々だが、まさかミュージカルの分野で身を立てようとしているとは想像していなかった。
今後この世界で主演を張っていくには、高音域もしっかり声を張れるようにならないと厳しいだろう。
脇役も含めてとにかく数をこなし、一流のプレイヤーたちの揉まれていってほしい。
また、数は少ないがセリフ回しを見ると、ストレートプレイでも難しい演技を要求される作品を演じきれそうなので、ぜひそちらも見てみたいものである。
まゆゆの新しい挑戦を応援したい。
この映画版は、とにかくオドレイ・トトゥが可愛かったことを覚えている……。