女子4回転時代到来で明らかになる現行採点方式の限界
こんにちは、虹風憂璃です。
ISUより、シニアの年齢制限を15歳から17歳に引き上げる、という案が出ているとニュースになりました。
昨今の、特に女子選手のピーク低年齢化を考えれば当然の案です。
しかし、ただ年齢制限を引き上げるだけでは、女子の選手寿命を延ばすことにな繋がらないでしょう。
私は以前より、現行の採点方式は、演技派より技術派のスケータに有利だと主張してきた。
ここでも、一般的に“表現力”に分類されているPCSについて、半分以上は技術力に対する得点であることを述べている。
そして、4回転を複数跳ぶことが当たり前になると、特に女子においては、演技派の選手が勝つ術はなくなってしまうのだ。
PCSには満点があるが、TESは青天井
例えば、現在男子シングルで歴代最高得点を持つネイサン・チェン。
昨シーズンのGPFで記録したフリー224.92の内訳は、TES:129.14、PCS:95.78.
TESがPCSの1.3倍以上となっており、これはチェンに限らず羽生含め4回転ジャンパーがベストな演技をした場合、概ねこのような得点配分となる。
そもそもTESで100点以上をマークしていたらPCSでは対抗できないが、TES110点まではまあ許容できても、120点を超えるとなるとちょっと偏りが大きい。
これが女子になるとより顕著だ。
女子のフリー世界歴代最高得点はアレクサンドラ・トゥルソワの166.62で、その内訳は、TES:100.20、PCS:67.42。
ざっとTESがPCSの1.4~1.5倍となり、男子に比べてその開きは大きい。
まずこの採点方式の限界をどうにかしない限りは、4回転時代を迎えた女子シングルを公平に評価することは無理である。
10年かけて限界が見えたPCS
ところで、今やトップクラスの選手では9点台後半を並べるのが当然という風潮になっているが、現行採点方式が導入されたトリノ五輪前後はそうではなかったことを覚えているだろうか。
フリーは125.32で、その内訳はTES:62.32、PCS:63.0であった。
PCSは7点台後半~8点ほどで、TESとPCSの割合は50:50である。
当時の最高の技術に今後の伸びしろを考慮した技術点の最高値を想定し、今後TES:PCS=50:50とするためには、PCSの伸びしろでカバーできるという構想だった。
あの頃は、PCSで7点台を並べれば「高得点が並びました」と言われていたのである。
通常クラスの選手で6点台、ジュニア上がりや下位レベルの選手では5点台も珍しくなかった。
ところが選手の技術が進歩し、かつて7点台だった選手が課題をクリアしてより良い演技を魅せた場合、8点台・9点台を出さざるを得なくなる。
また、当時の想定よりも早く技術の進歩が進んだため、TESとPCSのバランスがおかしくなってきてしまった。
これは既に羽生が2013年のGPFで、フリーのTESで100点越えを果たした辺りから指摘され始めていたことである。
2013年当時、男子で4回転は1本、ないし2本。
羽生は2本の4回転のうち、1本転倒(確か)してのこの点数なので、今後4回転2本を完璧に決め、さらに3本、4本と増やしていったらどうなるのか、と。
というか、男子4回転時代到来以降10年ほどは1~2本だったのに、羽生登場以降の4回転の本数&種類の進化が異常である。
そしてこの傾向はここ数年で顕著になり、特に本格的に4回転時代が到来した女子では異常値と言って良い。
このままでは、例え年齢制限を17歳に引き上げたとしても、第2ピークを迎えた20代の選手が大人の円熟味で勝負できる世界は永遠にやってこない。
では、どうするか。
ベテランが若手と勝負できる世界へ
現行採点方式を大きく変えずに、この偏りを是正する最も手っ取り早い方法は、PCSの係数を引き上げることだ。
男女の世界歴代最高点を基準に、とりあえず現状の公正性を取り戻すためには、男子で1.0→1.2、女子は0.8→1.0だろうか。
今後のさらなる技術の進化を考えたら、男子1.4、女子1.2でも良いかもしれない。
また、ジャッジの皆さんには、PCSの得点幅はもう少し顕著な差をつけても良いのではないか、と疑問を呈したい。
PCSはその得点の性質上、一度上がったら滅多なことでは下がらない。
ならば余計に、その積み上げがない選手にホイホイと高得点を出すのはどうなのか。
PCSの係数を引き上げた上で、9点台を並べるベテランと、PCSは低いが高難度ジャンプをポンポン跳ぶ若手、という構図なら勝負が成立するし、見てる方も面白い。
(また採点結果に文句を言う余計なマスコミが現れる気もするが、そこはルールや採点方式をきちんと説明・普及していない連盟の問題なのでまた別)
かつて6点満点方式の時代には成立していた技術 vs 表現の対決こそが、やはりフィギュアスケート競技の真骨頂である。
若い頃ジャンプで勝負していた選手が、年月を経てジャンプ一辺倒から表現・演技で魅せるタイプにシフトしていく様を見るのは往年のファンには喜ばしいことだが、今のままではそういった変化を見ることは難しい。
すべての選手が長く活躍するには
性別を問わず、まだ骨も筋肉も出来上がっていない10代の選手が、高難度のジャンプを跳んで体に負荷をかけることは、必ず20代後半以降の選手生命に影響する。
特に女子選手においては、体の成長をなるべく遅らせて第1次ピークを延ばすという手法も一部の国でとられていると聞く。
ソトニコワがソチで金メダルを獲ったのは18歳の時。
タラ・リピンスキーやアリーナ・ザギトワの金メダル取得を考えれば若すぎるとは言えず、シニア年齢17歳というのは妥当な線だと思う。
願わくは、選手の成長を不当に遅らせ、子供のような体型のシニア選手が大量にシニアデビューすることがないように……。
多くの選手が、ロシアタイマーを乗り越えて第2次ピークを迎え、女子フィギュア界を盛り上げてくれることを願うばかりである。
※なお、本記事では年齢制限の引き上げについて男子選手にはほとんど言及していないが、男子の場合は10代後半から右肩上がりでピークに向かい、一般的に22~23歳に最大のピークを迎えるため、今回の改正案ではほぼ影響がないため割愛した。
女子と違って、15、16歳の選手がベストを尽くしたベテラン勢に勝つケースは稀である。
(ベテランが負ける場合、ほとんどはベテラン選手に失敗があった場合)