Fleur de Noir

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GPF2017に見る平昌五輪男子シングルの戦い方

GPF男子シングルが終了した。
今大会、5人の選手が4回転を組み込み、更に上位3名は複数種類の4回転を最高5回組み込むという、高難度プログラムで挑んできた。
が、完璧に滑りきった選手は誰もおらず、優勝得点は286点台という、近年の男子シングルの成績としてはあまりパッとしない結果に終わってしまった。
そもそもソチ五輪前から、4回転を複数組み込む選手が増えた結果、男子の大会はほとんどが大自爆大会になっている。
それでも数年前までは4回転ジャンプはせいぜい1回、多くて2回だったので、4回転を決めた上でいかに他のミスを減らすか、GOEでプラスをもらうか、という戦いだったように思う。

しかし今シーズン、4回転をショートで2本、フリーで5本組み込むという挑戦をしている選手が少なくとも4人いる。(羽生・宇野・ネイサン・ボーヤン)
もちろん決まれば得点、プログラムともにものすごいことになる。
だが現状、全てをクリーンに決めるにはかなりの体力・技術を要し、ポロポロとミスがあった結果、全体的にプログラムが大味な印象になってしまうことが否めない。
今大会、解説の織田氏も指摘していたが、ネイサンは4回転5本を組み込んだため、助走のためにトランジッションが荒くなる傾向にあり、PCSも8点台後半と伸びなかった。
(但し、4回転が全て決まればPCSも変わってくるだろう。)
急遽プログラムを変更し、合計6本組み込んだ4回転のうち、GOEでプラスをもらったのはたったの2本。
ネイサンのショート・フリーの合計得点は286.51で、ショートで101点台をマークしている宇野が普通に滑れば十分に射程圏内だった。
しかし宇野もネイサンと同じようなミスを繰り返し、0.5点の僅差で2位。

ここで宇野の悪い癖が出た。
宇野は、コンボを予定していたジャンプの1本目が上手くいかずコンビネーションにできないと、他のジャンプにコンボをつけずにそのままスルーしてしまうことがよくある。
今回も4回転のミスが響いて、3A+1Lo+3Fの1回しかコンビネーションを跳べなかった。
確かに他のジャンプはこらえた着氷が多かったので、3Tをつけるのは難しかったろうが、最後に決めた3サルコウを何故コンボにしないのか。
ここで3サルコウという比較的簡単なジャンプを入れているのは、コンボが抜けた時のための保険ではないのか。
3サルコウのあとコレオシークエンスまであまり間がないので、構成的に余裕がないのかもしれない。
だが、今大会どこかのジャンプに2Tでもいいからつけていれば、ネイサンを上回っていたかと思うと惜しくて仕方ない。

今年のGPFはオリンピックの前哨戦である。
日本の羽生をはじめ、スペインのフェルナンデス、中国の金博洋、カナダのパトリック・チャンと、五輪メダル候補が軒並み出場していないので、五輪本番ではどう転ぶかわからない。
だが、近年の男子シングルの争いを見ていると、平昌五輪もある程度の自爆大会になることが予想される。
そうなった時に、確実に金メダルを獲るための戦略は4回転の本数を“減らす”ことだろう。
バンクーバー五輪の時は、4回転を跳ばなかったライザチェックが金メダルを獲り大論争になった。
しかし、4回転を5本組み込んでポロポロミスのあった選手と、4回転3本含め全てのジャンプをクリーンに決めた選手では、後者が上位に立つことはこれまでの大会で証明されている。
特に羽生と宇野は、4回転3本含め全ての要素をクリーンに決めればフリーで200点超えは確実なので、今大会のような試合展開になり、更に滑走順がTOP6のうち後半であれば、敢えて4回転を減らす、というのも金メダルを狙うための戦略としては十分ありなのではないかと思う。
もちろん、自分より後ろに4回転5本を組み込んでいる選手がいたらこの作戦は使えないが、今大会の宇野のように、「普通に滑れば優勝」という場面なら、「普通に滑る」スキルを磨いておくことも重要ではないだろうか。

とは言え、羽生も宇野も多分この作戦には乗ってこないだろう。
コーチのタイプという問題もある。
ニコライ・モロゾフは本番の流れを読んだ上での戦略立てが非常に上手いコーチだった。
トリノ五輪の時の荒川静香は、直前の6分間練習では難しい3-3を決めておいて、先に滑った選手がミスをしていく様子を見て、本番では3-2を確実に決める作戦に変更し、結果金メダルを獲った。
対して、羽生や宇野のこれまでの戦い方を見ていると、ミスをカバーする場合を除けば、当初から予定していたプログラム構成を土壇場で変更することは少ないように思う。
だが今の“真・4回転時代”の戦い方として、5本の4回転を何が何でも組み込むことが果たして最善策なのだろうか。

平昌での男子シングルの戦いがどのような展開になるかはまだ分からないが、できれば大自爆大会ではなく、多くの選手がベストを尽くした上での戦いになって欲しいと思っている。