個人戦を終えて、改めて団体戦を考える
個人戦の結果を踏まえて、団体戦に出場した選手が総じて調子を崩している、と言った意見が多く見られる。
「出なければ良かった」という人もいるが、私はそうは思っていない。
しかし、その「使い方」は非常に重要だった。
私が見た中で、団体戦を「上手く使った」のは、以下の4選手(4組)である。
- 羽生結弦(男子シングル金/日本)
- カロリーナ・コストナー(女子シングル銅/イタリア)
- エレーナ・イリニフ/ニキータ・カツァラポフ組(アイスダンス銅/ロシア)
- クセニア・ストルボワ/ヒョードル・クリモフ組(ペア銀/ロシア)
彼らに共通するのは“国際大会での実績の少なさ”である。
羽生は世界ランクこそ1位だったが、昨年のGPFで初優勝して初めて金メダル候補に躍り出たいわばダークホースに近く、世界選手権での表彰台の経験も1回しかない。
実力から言えば金は獲れたかもしれないが、団体戦のSPがなければ個人戦での101点台はありえなかったろう。
ペアとアイスダンスの2組はまだ若手で、ペアの二人にいたっては世界選手権の出場経験すらなかった。
まだまだ国際的な知名度が高いとは言えない彼らが、団体戦で素晴らしい演技をして観客とジャッジに“覚えてもらった”からこそのメダルだっただろう。
コストナーは27歳のベテランだが、1月にSPの曲を変え、初披露のプログラムだったので、それをジャッジに売り込む必要があっのだと思う。
しかし、ロシアのユリア・リプニツカヤに関してはそれが裏目に出てしまった。
団体戦ではSP・FS共に1位で、ジャッジ・観客共に強烈な印象を与え、作戦は成功したかに見えた。
だが母国ロシアでの五輪だったことがむしろ彼女にとっては災いした。
「初の五輪女王」の期待が国中から寄せられ、更に突然現れたダークホースという観点で日韓の取材攻勢も大変なことになった。
(これについては、他の選手を余りにも無視した報道もおかしかった。長く見てきた人間にとっては、ソトニコワもコストナーも充分に優勝候補の一角。)
体力的な問題を指摘する声もあるが、個人戦での失敗はむしろ精神的なものだったと思う。
皮肉な話だが、彼女がロシア人でなかったら結果は変わっていたかも知れない。
日本人選手については、完全に日本スケート連盟の作戦負けである。
私が最も驚いたのは、小林芳子監督の「今の実力でメダルを取るためには、個人戦を考えずに全力で取り組まないといけない。そういう考え方は、チームになかった」という発言。
本当にあのやり方で、団体戦のメダルが獲れると本気で考えていたのか!?と呆れてしまった。
冷静に各選手の持ち点とランクをもとに算盤を弾いていれば、日本選手全員がベストの演技をして、かつ3つくらい番狂わせが起きなければ無理な算段だった。
加えて4種目の総合力で争う団体戦は、番狂わせが起きにくい。
実際、男子SPでアメリカのジェレミー・アボットがまさかの失敗をしたが、他の選手の活躍でアメリカは順当に銅メダルを獲得した。
しかし出場する意味がなかったかと言えば私はそうは思わない。
上記のようにジャッジにアピールする意味でも、また羽生や町田など初めて五輪を経験する選手らを中心に、個人戦の前に一度本番のリンクで“試させる”という意味でも、今回の団体戦出場、更にフリー進出は意味があった。
メディアがどう煽ろうと、スケ連が“個人戦のための団体戦”という位置づけを明確にし、選手にも説明していたら、「国を背負っている」というプレッシャーが薄れ、もっといい演技ができたかもしれない。
そういう意味でロシアは、個人戦に向けて団体戦を上手く活用し、更に金メダルも獲得するという、初めての種目とは思えないほど団体戦の戦い方を熟知していたと言えるだろう。
ただ、団体戦に出場したせいで調子を崩した選手が国を問わずいたことも事実であり、全く検討の余地がないとは思わない。
日程を個人戦の後にする、団体戦要員を認める、SPとFSの選手交代を4種目全てで認める等、個人戦への影響がなるべくないようにすべきだ。
団体戦が行われたせいで今までの五輪よりも試合日程が詰まっていたことも、選手にとってはきつかっただろう。
例えば日程を、男子SP→女子SP→男子FS→女子FSといったように組むことはできないのだろうか。
また、羽生やチャンが言及していたが、SPが夜中の12時近くまでかかったのに、翌日の早朝から練習が割り当てられていたらしい。
特にSPでTOP3に入った選手は記者会見にも出なければならず、解放された時間は更に遅くなっていただろう。
競技への影響はないが、FS後のドーピング検査にも3時間以上要しており、もう少し選手の負担を減らす運営はできないものかと思った。
様々な禍根を残した初採用の団体戦であったが、競技自体は非常に見応えがあり面白かった。
4年後も行われるかは分からないが、もし行われるのであれば選手への負担を考慮しながら更に面白い闘いになることを願っている。