神演技連発の女子SPと声援のマナー問題
日本の観客の観戦マナーが海外の選手や関係者の間ですこぶる評判がいいらしい。
日本人選手はもちろん、どの国の選手に対してもあたたかい拍手と声援を送り、 神演技をすれば惜しみなくスタンディング・オベーションをする。
何種類もの国旗を持参して、選手の出身国によって持ち変える。
こんな応援をするのは、フィギア人気の高い欧米でもほとんど見られないという。
そもそも日本は、TVでの報道や選手の特集こそここ8年ほどのこととは言え、 男子が表彰台に乗ることのなかった90年代からフィギアスケート人気は高かった。
少なくともNHK杯の会場が全種目で毎年埋まるくらいには。 (今でもGPSの日本以外の会場では空席が目立つことがある。)
当時からのファンはみんな海外の有力選手を見るために競技場に足を運んでいたので、 「外国人選手を応援する」という行為自体に日本のフィギアファンはほとんど抵抗がない。
当時、ヤグ&プルやキャンデロロ、ジュベール、ランビエールなど海外にスター選手が多数いたことも影響したと思う。
トリノ以降、日本でもスター選手が数多く登場し、 男子シングルにおいては日本人のひいき目を抜きにしても羽生が世界のトップスターとなった今でも、 海外選手の素晴らしい演技を称賛する姿勢は基本的に変わらないと思う。 (だから、特に90年代に活躍したフィギアスケーターには親日家が多い。
また、前年のGPSで好成績を残すと翌シーズンのGPSをある程度選べるらしいのだか、NHK杯を選ぶ選手が多いとか。 実際、NHK杯は他のGPSに比べても例年レベルが高い。
ソチ五輪では、他国の選手の演技前にロシアコールが飛ぶなど、フィギア大国のロシアびいきは異様だった。 (それでも個人戦では大分落ち着いたと思う。4年前のバンクーバーの北米びいきの方が個人的には酷かった。)
そのせいかどうか定かではないが、男女シングルで“五輪の魔”にのまれた選手が余りにも多かった。
男子シングルにいたっては、SP・FSを通じて神演技を魅せたのは、SPの羽生結弦だけである。
女子は男子に比べればレベルの高い試合になったが、 それでも浅田真央をはじめとする日本人3選手やユリア・リプニツカヤが普段では考えられないような失敗をしている。
一方の世界選手権。
昨日の女子SPでは、浅田真央がバンクーバーで金妍児が記録した78.50を4年ぶりに更新。
他選手も、TOP6全員がSBを更新し、ノーミスの演技同士での闘いとなった。
第5グループの第一滑走だった浅田が素晴らしい演技を魅せ、続く選手が波に乗れたということもあるだろうが、 全選手に公平に送られるあたたかい声援が無関係だとは決して言えないだろう。
羽生のコーチ陣の一人であるトレイシー・ウィルソンは、 「ここの会場全体が暖かい雰囲気。ソチでの厳しかった体験を終えて、まるでヒーリングされているような気がする」 とまで語ったらしい。
また、海外のトップスケーターが五輪後の世界選手権にモチベーションを落とさずに来てくれたことも、非常に喜ばしい。
サブチェンコ・ゾルコビー組はソチまでとしていた引退の時期を延ばしてまで東京に来てくれたし、コストナーも震災で開催国が変更になった世界選手権に触れ、 「日本の皆さんは本来なら2011年に東京で世界選手権を開催するはずだったのに、(震災の影響で)できなかった。皆さん待ってくださっていたんだと思い起こしました。」 と日本の観客への思いを語ってくれ、とても嬉しかった。
だからこそと言うべきか……男子SPの羽生の演技直前「ゆづ、愛してるー!」という声援が飛んだことが、彼の演技に全く影響を与えなかったとはどうしても思えない。
他の選手が、観客の声援を糧に次々と素晴らしい演技を魅せる中、 五輪チャンピオンだけがホームアドバンテージどころか、自国のファンに足元をすくわれるという情けなさ。
オリンピックで羽生の演技を見てファンになること自体は悪いとは言わない。
しかし、フィギアスケートの素晴らしさは、たった一人の選手を見ているだけでは味わいつくせない。
彼らが、「デーオタがユヅリストに変わっただけ」と他のファンに言われないように、 羽生だけでなくフィギアスケートという競技そのものを愛してくれることを切に願っている。
そして羽生には、ソチ五輪で果たせなかった完璧なフリーを魅せ、王者の貫録を示して欲しい。