ソチ・オリンピック総括 その1
本当はフィギアスケートが全種目終わってから書こうと思ってたんだけど、凄い長文になりそうなので、2回に分けようかと。
もう昨夜からアイスダンスが始まってしまいましたが、一応半分の種目が終わったということで。
●ペア
ペアはロシアがフィギア大国復権の威信をかけて金・銀を獲得!
残念ながら日本の高橋/木原組はフリーに進めず。
4年後のためにも、何とかフリーには行ってほしかったけど仕方ない。
他、結果は以下の通りです。
1位:タチアナ・ボロソジャル/マキシム・トランコフ組(ロシア)
2位:クセニヤ・ストルボワ/ヒョードル・クリモフ組(ロシア)
3位:アリオナ・サフチェンコ/ロビン・ゾルコーヴィ組(ドイツ)
4位:龐清/佟健(ホウセイ/トウケン)組(中国)
5位:カースティン・ムーア=タワーズ/ディラン・マスクビッチ組(カナダ)
6位:ベラ・バザロワ/ユーリ・ライオノフ組(ロシア)
7位:メーガン・デュアメル/エリック・ラドフォード組(カナダ)
8位:彭程/張昊(ホウテイ/チョウコウ)組(中国)
なんと、6位に入ったバザロワ/ライオノフ組も含め、ロシアは全ペアが入賞!
金と銅のペアはそれぞれここ数年の世界選手権で金・銀を分け合っており、今大会でどちらが金メダルを獲るのかが注目されていた。
そこに飛び込んできたのが、銀メダルのペア。
スポナビの“有力選手紹介”にも載っていない完全なダークホースである。
世界ランキングこそ5位だが、世界選手権の出場経験もない。
私は先日話題になったロシアとアメリカの不正取引疑惑には懐疑的だが、もし本当に取引が行われたのならば、2位のペアは万が一ボロソジャル/トランコフ組が大コケした場合の保険に使われたのではないか……。
そんな気がするほど銀メダルペアの点数はインフレしていた。
しかし、ノーミスの演技を五輪の大舞台で決め、4年後の金メダル候補に一気に躍り出たと言える。
滑走順もロシアに味方した。
最初に銀・金の順でロシアの2組が滑り、ロシア万歳の空気の中で4位の中国ペアが滑り、最後が銅メダルのドイツのペアだった。
中国のペアはロシア一色の空気の中、自分たちの世界を創り上げたが、今一つ得点が伸びず。
最終滑走のドイツのペアは、普通に滑れば銀メダルは獲れただろう。
が、最初のサイド・バイ・サイド(男女が同時に跳ぶジャンプ)で失敗し、最後に挑戦したスロウ・トリプルアクセルも転倒。
銅メダルに終わったが、追い詰められた状況で最後に大技を入れてくる勇気には敬意を表したい。
バンクーバーで金・銀を獲得し、ペア大国の存在感を示した中国はトリノ以来のメダルなし。
しかし、今から思えばこの結果は2、3年前に既に予見されていた。
バンクーバーの金メダルペアは、最後の心残りだった“五輪の金メダル”目指してアマチュア復帰した大ベテランで、金メダル獲得後に完全引退。
銀メダルペアも、既に30歳を迎えていた。
5位に入った張丹/張昊組はまだ20代半ばだったが、なんと「女性の身長が伸びすぎた」という理由でその後ペアを解散してしまった。
そして今大会、前回銀メダルのペアは4位となり、引退を表明。
8位のペアは、女性はまだ16歳だが男性は29歳。
4年後も同じペアで挑むのは少し厳しいかも知れない。
ペア大国中国復活のためには、ジュニア世代からもう一度鍛え直す必要がありそうだ。
余談だけど、4位の龐清/佟健組が滑り終わった後、キス&クライに趙宏博がいたよね!?
アナも解説も突っ込んでなかったけど。
今回フリーのアナがセクハラ実況で有名なフジの塩原アナだったのだけど、いつになく静かだなと思ったら、知識なくて喋れなかっただけっていう……。
●男子シングル
まずは羽生選手、金メダルおめでとうございます!
そして町田・高橋両選手も入賞おめでとうございます。
もう嬉し過ぎて、4年前と同様スポーツ紙を大量買いし、各局のインタビューや特集も録画しまくって見まくった!
勝因として、後半に高難度のジャンプを組み込む演技構成があげられていて、もちろんそれも大きいのだけど、色々なものを見れば見るほどやはり滑走順がものを言った、という気がしてならない。
チャンの滑走順は羽生の直後。
羽生の演技を見て「普通に滑れば俺が勝つ」と思っただろう、と前記事に書いたが、もし羽生がパーフェクトな演技をしたらきっとこう思っただろう。
「自分のベスト+αで滑らなければ勝てない」
チャンがベストを尽くしても、今季のプログラムでは羽生のベストに勝てない。
そのことはGPFで証明された。
チャンはやはり大きなプレッシャーと戦わなくてはならなくなる。
つまり、FSの滑走順が決定した時点で、羽生は金メダルを8割方引き寄せていたのである。
滑走順はくじ引き、つまり“運”である。
しかしその“運”を引き寄せたのは、羽生の努力に対するソチの女神からのご褒美かも知れない。
というのも、競技終了後の会見やインタビュー等を見ていると、チャンと羽生では背負っているものが違いすぎる、と感じた。
思うにチャンは、今までそれほど大きな挫折を経験することなくここまで来たのではないだろうか。
バンクーバーではメダルが期待されていたが、まだ19歳で5位でも大健闘だったろう。
翌シーズンから世界選手権3連覇。
コーチへの批判や、カナダ初の金メダルの重圧などのプレッシャーはあったようだが、今まで恐いもの知らずできたはずだ。
一方で羽生は、被災地仙台出身であることが大きな注目を集めていた。
震災後のインタビューで印象的だったのは、「最悪の基準が変わった」というコメント。
震災の経験が彼の類い稀なる精神力を築き上げ、技術力・表現力共に大きく飛躍させたことは間違いないと思う。
フィギアスケートを20年間取材してきた田村明子氏が、
「『時が満ちている』人は、どんな選択をしても最終的にそれがよかった、という展開になるものだ」
と著書の中で語っている。(『パーフェクトプログラム 日本フィギュアスケート史上最大の挑戦』、2010年、新潮社、P.171)
震災の経験すら“あの経験があったからこそ”と思わせてしまう羽生が背負っていたものは、確実にチャンのそれよりも大きかっただろう。
ちなみに、チャンはまだ今後の競技生活についてコメントしていないが、来季も現役を続けるとしたらちょっと楽しみである。
というのも、実は私は彼の演技で感動したことが1回もない。
スケーティングスキルが素晴らしいことは分かるが、どんな曲で滑ってどんな演技だったか、全く記憶にない。
しかし、おそらくスケート人生で最大の挫折を味わった彼の演技が、今後どう変わっていくのか、変わらないのか、気になるところだ。
ところで、羽生の今季のフリー・プログラムの曲が“震災後のシーズンと同じ”と報道するの、いい加減どうになからんのか。
確かに同じロミジュリだけど曲が違う。
TV・新聞・ネット全てその報道で、「同じテーマだが別の曲」と書いてるのはフィギア専門誌だけである。
ちょっと調べれば分かることだし、シーズン序盤ならともかく、もう5ヶ月滑ってるのに……。
しかもテレ朝は、GPSの羽生の紹介Vで「同じテーマだけど曲が違う」ことに触れてるのに、未だ間違えてるっていう大失態。
荒川さんでも誰でもいいから、誰か指摘してくれ~。