羽生結弦にかかる300点超えの期待
羽生結弦の14-15シーズンのプログラム概要が発表された。
振付はジェフリー・バトル。
2季連続で世界歴代最高得点を更新し、オリンピック金メダルの原動力ともなった名プロ「パリの散歩道」を生み出したバトル氏との再タッグだが、今季は心機一転、王道のクラシック。
とはいえフィギアで使い古された曲かと言えばそうではなく、私がググった限りでは浅田真央が10-11シーズンでエキシビジョンに使用しているだけだった。
先日のアイスショーで披露されていたのを見たが、繊細で優美なプログラムで、シーズンまでにどこまで仕上げてくるか楽しみである。
フリーは初めて組むシェイリーン・ボーン振付で「オペラ座の怪人」。(※1)
デイヴィッド・ウィルソン氏の振付には少々食傷気味だったので、新しい人と組むのは良いと思う。(※2)
それにしてもファントムは、フィギュアアスケーターに本当に人気。
昨季は鈴木明子がフリーで使用したし、今季は村上佳菜子もファントムで滑るらしい(しかもヒロインのクリスティーヌではなく、ファントムを演じるとか。こちらも楽しみ)。
しかし、日本のフィギュアファンの間で最も印象が強いのは、やはり高橋大輔が07年に世界選手権で2位に入った時に滑っていたプログラムだろう。
高橋とは醸し出す空気が全く違う羽生の滑るファントムはどんな風になるのか、楽しみである。
ところで今季のプログラムで最も注目を集めているのはその構成である。
SPはざっくり言うと、昨季のプログラムの3アクセルと4回転トウループを入れ替えた構成になっている。
つまり後半に4回転と3-3の連続ジャンプを跳ぶ。
FSでは、ついに4回転を3回組み込む。
今分かっているのは、前半に2種類の4回転(トウループとサルコウ)を入れ、後半に4T-2Tの連続ジャンプが入るということ。
これは推測だが、昨季同様に後半にトリプルアクセル2回(うち1回はコンビネーション)とトリプルルッツを含む連続ジャンプが入るとしたら、これは大変なことになる。
概要が発表されて以来、ファンの間では「鬼プロ」との声が聞こえるが、そもそもシニアデビュー年の「ツィゴイネルワイゼン」から、彼のフリー構成が鬼ではなかったことはない。
シニアデビュー以来、常に自分の限界点の上をいくプログラムを用意し、滑り込むことで力をつけてきたのである。(※3)
各スポーツ紙は、こぞって「成功すれば300点超えも見える」と書いているが、そもそも羽生は昨季のプログラムでも300点を超えるポテンシャルは持っていた。
彼が昨季フリーで自己ベスト(193.41)を記録した、グランプリファイナルのスコアを基に検証してみよう。
要素/基礎点/GOE/得点
4S/10.50/-3.00/7.50
4T/10.30/2.29/12.59
3F/5.30/1.40/6.70
StSq3/3.30/1.00/4.30
FCCoSp4/3.50/1.00/4.50
3A+3T/13.86/2.57/16.43
3A+2T/10.78/2.14/12.92
3Lo/5.61/1.00/6.61
3Lz+1Lo+3S/11.77/0.90/12.67
3Lz/6.60/1.30/7.90
Chsq1/2.00/1.70/3.70
FCSSp4/3.00/1.00/4.00
CCoSp1/2.00/0.21/2.21
以上がグランプリファイナルのスコアのうち、技術点の内訳である。
このうち、失敗等により減点されている部分を成功していたと仮定するとこうなる。
(GOEは、失敗した技は0、成功したけれどレベル認定が低い技は同じGOEとして設定)
要素/基礎点/GOE/得点(実得点との差)
4S/10.50/-3.00/7.50→ 4S/10.50/0/10.50(+3)
4T/10.30/2.29/12.59
3F/5.30/1.40/6.70
StSq3/3.30/1.00/4.30→StSq4/3.90/1.00/4.90(+0.60)
FCCoSp4/3.50/1.00/4.50
3A+3T/13.86/2.57/16.43
3A+2T/10.78/2.14/12.92
3Lo/5.61/1.00/6.61
3Lz+1Lo+3S/11.77/0.90/12.67
3Lz/6.60/1.30/7.90
Chsq1/2.00/1.70/3.70
FCSSp4/3.00/1.00/4.00
CCoSp1/2.00/0.21/2.21→CCoSp4/3.50/0.21/3.71(+1.5)
最初の4回転サルコウをしっかり決め、中盤と終盤のスピンでレベル4を取っていればTESが+5.1となり、転倒による減点1もなくなるので+6.1。
193.41+6.1=199.51。
200点までにはあと0.49足りないが、冒頭の4SのGOEやPCSなどを含めると、このプログラムで稼げない点数ではない。
羽生は毎シーズンフリーのレベル構成が高すぎて、シーズン中に“完璧に滑りきった”ということがほぼない。
高い基礎点を持つプログラム構成は“勝てるプログラム”ではあるかもしれないが、ファンとしてはやはり完璧に滑りきる姿を見たいので、そこまで鬼プロを組まずとも……と思ってしまうのだが。
※註
- フリーの振付師がシェイリーンになった、というのと、曲がファントムになった、というのは別記事だったので、振付師は変更になった可能性もある。
- 昨季の「ロミオとジュリエット」もその前の「ノートルダム・ド・パリ」も、曲が違うだけで同じに見えてしまう。要素の構成が似ているせいだと思うが。羽生のことを「何を滑っても同じ」と批判する人もいるが、それは多分彼のせいではない。
- その証拠に、当時はあれほどヘロヘロになりながら滑ってきた11-12シーズンの「ロミオ+ジュリエット」も、先日のショーではいとも簡単に滑りこなしていた。