Fleur de Noir

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ピーキングについて

先週スペイン・バルセロナにて行われたグランプリファイナル。

羽生結弦NHK杯の大記録を更に更新し、ものすごい記録を打ち立てた。

実はソチ五輪で彼が金メダルを獲った時から気になっていたことがある。

彼の、競技人生のピークはいつなのか、と。

 

フィギュアスケートにおいて、“ピーキング”は3種類ある。

1つは一シーズン内でのピーキング。

一般的には世界選手権、オリンピックシーズンであればオリンピックに、そのシーズン一番のピークを合わせるのがベストだ。

GPSやファイナルでもPBを更新してきた選手が複数いるが、世界選手権のことを考えれば、それらは全て“上り調子の途中”でなくてはならない。

スケジュールに余裕があれば、ピークを迎えた後に一度落とし、世界選手権に再度上げることも可能だろう。

全日本選手権から世界選手権までは約3ヶ月あるので、不可能ではない。

しかしこれが五輪シーズンとなると、スケジュールに余裕がなく難しい。

 

ソチ五輪を例にとっても、鈴木明子村上佳菜子は全日本にピークが来てしまった。

全日本の鈴木の演技を見た時は、

「これと同等の演技をソチでもできればメダルあるかも!!」 

と思ったものだが、残念ながらソチでの演技は全日本のそれには程遠いものだった。

安藤美姫トリノバンクーバーシーズン共に割と早くピークが来てしまい、ファイナル~全日本では既に失速気味。

全日本で台乗りせずに2度もオリンピックに出場した選手は、彼女以外いないのではないだろうか。

 

そして2つ目は、数年単位で訪れる周期的なピーク。

TV放映などでは、「今季絶好調!」と評されたりする。

周期的なピーキングの波が分かりやすい例をいくつか挙げてみよう。

 

安藤美姫は2回のピークがどちらも五輪の翌シーズンにきている。

実力だけなら1度くらい五輪でメダルを獲っていてもおかしくないが、これはひとえに「彼女のピークが1年ずれてた」ことに尽きる。

一方で高橋大輔は、2年周期。

世界選手権で初めて2位に入ったトリノの翌シーズン、バンクーバー五輪シーズン(怪我のため1年ずれたのはラッキーだった)、そして2度目の世界選手権銀メダルを獲得した2011-12シーズン。

 

この二人に特徴的なのは、プログラムの良し悪しがピーキングに大きく左右していること。

右脳で滑るタイプの彼らにとって、プログラムとの相性は重要である。

自分も気持ちよく滑れて、曲のリズムと自分のジャンプのタイミングがマッチし、ジャッジ受けも良く加点がもらいやすいプログラム……。

残念ながらこれは、シーズンオフにどんなに作りこんでも、実際に試合で滑ってみないことには分からない。

安藤美姫は、世界女王になったシーズンは二度ともSPの曲を変えている。

上手くいかない、と思ったらすぐに曲を変えられることも彼女の強みではあるけど。

 

3つ目は、“競技人生のピーク”である。

これが一番重要で、オリンピックシーズンに競技人生最大のピークを合わせ、金メダルを獲って引退……。

これが一つの理想的なフィギュアスケート人生だろう。

ちなみに荒川静香はこれをやってのけた、理想的な選手の一人である。

 

ここで象徴的な例は、エフゲニー・プルシェンコパトリック・チャン

プルシェンコは、06年のトリノで個人としては唯一の金メダルを獲得しているので錯覚しやすいが、実は彼のピークはソルトレークシティ五輪後の2シーズンである。

トリノはピークを過ぎて下り坂に差し掛かっている時だったが、元々がすご過ぎて、難なく金メダルを獲得した。

が、演技だけを見れば、銀メダルに終わったソルトレークシティの方が素晴らしかったとも思う。

 

パトリック・チャンも同様で、彼のピークはメダルだけを見ればバンクーバー後の2シーズンだし、点数だけを見れば、五輪直前のエリック杯だろう。

当時は無双過ぎて誰も気づいてなかったが、実は13年の世界選手権あたりから既にほころびは見え始めている。

チャンが「トリプルアクセルが苦手だ」なんて、羽生が福岡のGPFで優勝してプロトコルをよく見るまで気づかなかった。

振り返ってみれば、チャンの失敗の多くはいつもトリプルアクセルだったのに。

(もしくは4回転の勢いがつきすぎて壁に激突)

しかしプルと同じく、元がすご過ぎるので下り坂に入っても世界選手権で優勝できたのである。

 

さて、、、羽生結弦である(前置きが長くてすみません)。

元々シニアデビューした頃の彼は、金メダルを目指すのは18年の五輪と見定め、著書でもそう語っている。

 

女子は、十代半ばと20代前半に二度のピークが訪れるのが一般的だ。

女子選手の場合は、二次性徴に伴う体形変化を乗り越え、競技人生を終える前に二度目のピークを持ってこれるかが大きな課題となる。

一方で男子の場合は、ある程度の筋力や体力がついてこないと厳しいので、十代後半から右肩上がりであることが多い。

一般的には、体が成熟し、年齢的な衰えはまだ訪れない22歳~24歳頃がピークとなり、そこに五輪を合わせられるかというのは、ほとんど運みたいなものである。

 

平昌五輪の時、羽生は23歳。

年齢的には選手として最も脂ののった時期と言えるだろう。

今のところ、怪我や病気の影響があった昨シーズンを別とすれば、ソチから今までの彼はまだ“上り調子の途中”である。

がしかし、2度も驚異的な点数で最高得点を更新したことを考えると、今季がピーク、ということも十分考えられる。

 

まだまだ上り続けて、平昌で本当のピークを迎えるのか、ピークは過ぎつつも、今の圧倒的なリードを保つのか、それとも他の選手に追いつかれ、追い越されてしまうのか。

もしくは、平昌後に本当のピークが待っているのか。

 

それは、彼が引退するまで誰にも分からない。