Fleur de Noir

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【書評】ブルーマーダー

ブログ第1回目の記事は、姫川玲子シリーズ第6弾となるこちら。

いきなりシリーズ物の第6弾からというのもどうかと思うが、仕方ない。

 

 私は当初、姫川玲子という女性刑事を主人公とする『ストロベリーナイト』に始まる一連のシリーズを甘く見ていた。

というか、ドラマで初めてその存在を知ったのだが、そのタイトルからはまさかミステリーだとはつゆとも思わず、ありふれた恋愛物のトレンディ・ドラマ(この言葉ももう古い)だと思っていた。

ところが約2年前、当時入院していた私はたまたま同室の女性が見ていたドラマ版の再放送に一緒に見入ってしまい、そういえば旦那が何故かその再放送を全て録画していた事を思い出し、退院してから全作を一気見した。

一部録れてない回もあったが、TSUTAYAでレンタルして見た。

そして原作も読んだ。

なぜ、私はこのシリーズを今まで完全にスルーしてきたのかと思ったものである。

そんな私がなぜ刊行から1年以上経ち、かつシリーズの続きも2冊刊行されている今になって『ブルーマーダー』を読んだのかといえば、ひとえに文庫になるのを待ち、更にそれがBOOK-OFFで安くなるのをひたすら待っていたから……。

相当な積読常習犯である私は、すぐ読まない本は全て古本で入手することにしている。

そしてこの『ブルーマーダー』も、購入してから半年くらいは積んでいた。

現在、絶賛積読消化期間中につき、ようやく手にとった次第。

 

さて、前置きが長くなったが『ブルーマーダー』である。

私はこれまでの過去5作を読んできて、姫川玲子はいわゆる“こじらせ女子”だと思っている。

彼女がこじらせるに至った事情については、仕方ないというかなんというか。。。

だが、知らない者にとっては、“めんどくさい女”に映ってしまうことも否めない。

そんな玲子のめんどくささ、こじらせっぷりが影響して、いい雰囲気になりながらも全く進展のなかった部下の菊田との関係が大きく変容するのが前々作『インビジブルレイン』だった。

玲子は前作の事件の関係者であり、暴力団関係者であった男性と恋に落ちる。

その事件を機に姫川班は解体され、菊田は失恋し(たと思い込み)、新たに配属された先で出会った10歳年下の梓とあっさりと結婚してしまう。

この梓がまたなんというか、

「玲子みたいなめんどくさい女との恋の後に、こういう分かりやすい女にいくよね、男って」

「あー、最終的にはこういう女が全部持ってくよね」

というタイプなのだ。

でも、悪い子ではない。

玲子(=読者)の目から見ても決して悪い印象はない。

玲子に対して「主人を……助けていただいて、ありがとうございました」と、“ある種の「宣言」”をするしたたかさもある。

作者の誉田氏は男性だが、こじらせている女性の目線はもちろん、男性が好みそうな女性をなぜこんなにも俯瞰して描けるのか。

梓は多分、病室の外で自分の夫と玲子のやり取りを、どこからか聞いていた。

そして悟っただろう。

彼が自分と付き合う前に「失恋でもしたのかなって」、その相手が玲子であったことを。

梓の視点は全く描かれていないのに、たった4行で彼女が頭の中でぐるぐる考えているであろうことを想像させる手腕は見事としか言いようがない。

「最終的にはこういう女が全部持っていく」という視点は、女性ならば殆どの人がどこかで持っているものだと思うが、実際に持ってかれている男性にはそういう自覚はない。

彼は他にも女性を主人公とする小説を書いているようだが、彼自身の女性観というものはどんなものなのだろうか。

 

さて、姫川玲子シリーズでは、既に新作として『インデックス』と『硝子の太陽R―ルージュ』が刊行されている。

  

『硝子の太陽R―ルージュ』は、『硝子の太陽N―ノワール』と対になっており、そちらは同作者のジウシリーズの新作として位置づけられている、らしい。 (誉田氏のシリーズは姫川玲子しか読んでいないのでよく分からない)

こちらは中央公論社刊。

出版社の垣根を超え、装丁まで合わせてきた一大プロジェクトといっていいだろう。

私は例によって文庫待ちなので、それまでに『ジウ』三部作と『国境事変』に始まるアウトサイド4作を読了しておくとしよう。