町田樹完全覚醒!“左脳で作る”パーフェクト・プログラム
いよいよグランプリ・シリーズが開幕し、本格的にフィギアスケートがオン・シーズンに突入した。
第一戦、スケート・アメリカは、町田樹が2位以下に10点以上の大差をつけ首位発進。
その原動力となったのは、何と言っても彼自身がこだわり抜いた、作りこまれたプログラムだろう。
町田は、芸術性を重視するスケーターには珍しく、“左脳で滑る”タイプである。
表現力に定評のある多くのスケーターは、音楽に身を委ね、心の赴くままに滑る、“右脳で滑る”タイプが多いが町田は違う。
彼は映画や音楽、小説などから右脳で受けた感動やインスピレーション左脳に変換・分析し、「ここはこういう感情を表現したいから、この表情・振付で」と考え、それを再び右脳に戻して氷上で表現している、類稀な才能を持つ芸術家だ。
様々な分野で多くの芸術家がこの作業に挑戦しているが、私の中でそれを「完璧に成し遂げた」と思えたのは、映画『パフューム―ある人殺しの物語』のみである。
町田の昨季のSP『エデンの東』でもその片鱗は充分に見られたが、今大会で初披露された新しいSPはその遥か上の次元にあった。
細かなつなぎの演技一つひとつ、どれ一つとして無駄なものがなく、『ヴァイオリンと管弦楽のための幻想曲』の世界観を町田ワールドに仕立てるために計算しつくされた、完璧に作りこまれたプログラムだった。
93.39という得点は、彼の実力とこのプログラムの底力、そしてGPS第一戦ということを考慮すれば妥当な得点と言えるだろう。
明日披露される『第九』が、どのような仕上がりになっているのか、そしてこの2つのプログラムがこれからどう育っていくのか、今から楽しみである。
以下、気になった選手たちの雑感。
●ジェレミー・アボット(米)
6分間練習で姿を見てまずびっくりした。
ソチ五輪を最後に引退を宣言していたが、SPの4回転で転倒し腰を強打。
不本意ながらも4回転を回避した構成で臨んだフリーで完璧な滑りを見せ、我々に強烈な印象を残した。
世界選手権にも出場してくれて、シーズン終了後、現役引退にためらいを見せていたがどうやら現役続行を決断したようだ。
そしてこの滑りである!
ボーカル入り解禁の新ルールを最大限活用した洒脱で粋な音楽は本当にピッタリだし、ステップどころかただ滑っているだけで涙が出てくる心が洗われるような演技。
ソチ五輪のフリーでも解説の本田氏が「言葉はいらない」と言っていたが、今日のSPも解説の織田氏は同じことを口にしていた。
現役続行の決断に拍手して感謝したい。
●アルトゥール・ガチンスキー(露)
シニア・デビュー時は「ついにプルシェンコの後継者登場か!?」と期待したのだけど(同じミーシンコーチだったし)、以降低迷。
今季の復活を期待したものの、その通りにはいかなかったようだ。
減点2がついていたのでプロトコルを確認したところ、Late Startを取られていた。
もったいない部分なので、次回から修正してほしいところ。
あと、あのドーナツ・スピンはあまりにも形が……。
足を持つと評価が上がるというのは分かるが、他のポジションにできないものだろうか。
●マイケル・クリスチャン・マルティネス(フィリピン)
フィリピンでは初の世界トップクラスになれる可能性を秘めた選手ではないだろうか。
スピンのポジションの美しさ、情熱的なステップが素晴らしかった。
特にあの完璧とも言えるポジションのビールマン・スピン!
女子でもあの形を作れるのは、世界トップクラスの選手の中でも限られているだろう。
冒頭のトリプルアクセルの転倒がなければメダル争いに絡めたと思われるだけに悔やまれるが、次の大会に期待したい。
アイスダンスは、シブタニ兄妹がSP2位に。
今季世界TOP2のカップルが共に休養に入っているので、アイスダンスは荒れそうである。
4年間全く世代交代していないので、新しい風を吹かせてくれそうなカップルが複数現れると今後が楽しみになる。
明日はいよいよ女子シングルが始まる。
トゥクタミシェワ、ラジオノワ、ゴールドの三強に今井遥がどこまで絡めるか、というところ。
個人的にはトゥクタミシェワの復活に期待したいが、今井遥の新SPが素晴らしいのでこちらも非常に楽しみである。