Fleur de Noir

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【書評】チーム・ブライアン―300点伝説―

ブライアン・オーサー氏の2冊目の著書、『チーム・ブライアン―300点伝説―』を読みました。

チーム・ブライアン 300点伝説

チーム・ブライアン 300点伝説

 

 1冊目の『チーム・ブライアン』も以前読んでおり、その時の感想として大きかったのは「金妍児の印象が変わった」ということ。

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前作の刊行はソチ五輪直後、羽生がクリケットに移籍してからまだ2シーズンしか経っておらず、当たり前だがほぼ半分以上は金妍児の話だった。

本書は、羽生がソチで金メダルを獲った後から、オリンピックプレシーズン(16-17シーズン)の直前までの出来事が書かれている。

本書で最も興味深いのはやはり“あの中国杯”の裏側だろう。

そう、羽生が中国の閻涵と衝突し、大怪我を負ったあの中国杯だ。

その後も全日本直後に手術の必要となる病気が発覚したり、あのシーズンは羽生にとって悪夢のような激動の半年だった。

そして、シーズン終わりの世界選手権では、同門のハビエル・フェルナンデスが初優勝する。

ここまで育まれてきた、そして更に絆を深めている羽生とハビエルの友情に涙なくしては読めない。

 

更に、現行の採点システムでの高得点を取るための秘訣、ISUはどのような演技を評価するのか、そのためにはどのような演技をすればいいのか、いわば企業秘密とも言えることが書かれている。

得点について「なぜこの点数が!?」と疑問に思うことがあるならば、読んでみると理解の助けになるだろう。

そこで注目すべきは、金博洋とネイサン・チェンについての評価。

4回転を複数種類操り、フリーに4本も5本も入れる彼らの演技に対し、「ジャンプだけでは勝てない、トータルパッケージが大事」とけんもほろろだ。

だがたった2年であっという間に状況は変わった。

ボーヤンは、ジャンプ以外の部分も大いに磨き、平昌では大健闘の4位。

ネイサンはSPこそ振るわなかったものの、4回転5本を含む素晴らしいフリーを魅せ、フリーだけなら金メダルの羽生に9点ほどの差をつけて1位だ。

そして、この夏からボーヤンはクリケットの一員になった。

オーサー氏とボーヤンの間で一体どのような話し合いが行われ、移籍に至ったのか、いつか3冊目で読んでみたい。

 

3つ目の注目点は、オリンピックプレシーズンを迎えるにあたり、「全てがオリンピックに向けたテストだ」としていたこと。

オリンピックの行われる2月のピーキングを試すため、そしてシーズン後半のピーキングを維持するために、羽生は2017年の四大陸選手権に出場する。

(刊行時はまだ“その予定”という段階)

その作戦は上手くいき、3月の世界選手権では3シーズンぶりに優勝する。

しかし、プレシーズンに試したピーキングは、全て五輪直前のNHK杯での怪我でなんの役にも立たないものとなってしまうのだ。

つまり今季の、特に怪我以降の羽生に関しては、かなりぶっつけ本番に近い状態だったのではないか?と予想される。

この辺の裏話もぜひ読みたいので、是非とも3冊目の刊行を期待したいところだ。