Fleur de Noir

日々の思いの丈、映画、本、TV、もろもろ。

全日本選手権の激辛採点が示すもの

今年の全日本では例年になく厳しい判定だったことが大きな話題となっている。

元々、全日本選手権は他国の国内選手権と比べると、「採点が厳しい」「得点を“盛らない”」と言われていた。

しかし、欧米やロシアの国内選手権を見てみると、軒並み加点祭りのモリモリ得点である。

全日本選手権と全く同じ日程で行われていたロシアの国内選手権を例にとっても、女子シングルTOP3は全員200点超え。

彼女たちが今季の国際大会で記録していた得点と比べても明らかに高い。

男子シングルも、最終結果は常識的なところに落ち着いたが、SPではあのコフトゥンが98点台を記録している。

 

国内大会の採点が甘いのは、それが“世界へのアピール”だからである。

昨シーズンの羽生で言えば、「うちの羽生は非公式だけどSPで103点を出すような凄い選手なんです!!!!」という国からの推薦状を引っ提げてオリンピックに乗り込んだことは、SPでの101点台記録、そして日本男子初の金メダル獲得の一助となっただろう。

同様に、世界選手権3連覇当時のパトリック・チャンは、国内大会でものすごい得点を記録し、その得点の持つ破壊力に見劣りしない演技をしたからこそ、「やっぱり凄いね!」ということで、ジャッジたちは気前よくGOEやPCSを出したのだ。

もちろん、世界大会での優勝は本人たちの実力あってのものであるが、国内大会での記録は国際大会のジャッジたちが“そういう目で見る”という意味で重要である。

しかし当時、全日本選手権のジャッジたちは日本人特有の謙虚さ故なのか、他国よりは辛めの基準で採点していたように思う。

 

しかし、それもある意味では仕方がない部分もあった。

欧米のフィギュア大国であっても、例えばパトリック・チャンプルシェンコなど、ただ一人突出した選手がいて、彼らと国内2番手の間には歴然たる差があった。

が、日本の選手で考えてみると、当時エースだった高橋と他選手の間には、チャンやプルシェンコが持っていたほどのアドバンテージはなかった。

現在は羽生がその座を不動のものとしているが、いわゆる“絶対エース”的なポジションは、日本では本田武史以来、約10年ぶりのことである。

(フィギュア人口が欧米よりも少ない中、世界トップクラスの選手が複数いる、というだけで凄いと思うけど。)

 

私は国内大会の得点を“盛る”ことは基本的に賛成だが、それはあくまでも“順位に影響がない”という前提があってのことである。

たまたま最初の方に優勝候補の選手が演技し、何か失敗があった場合、他選手と実力が拮抗していたら「この後滑る選手が完璧に滑ったら抜くかも」と思えば盛りにくい。

昨シーズンの全日本で羽生に103点台が出た時は、「日本もついに世界へのアピールとして得点を盛り始めたか!?」と思ったが、今にして思えば昨シーズンの羽生のショートは非の打ちどころがなく、他選手との差が圧倒的だったので盛りやすかったのだろう。

他選手と構成を比較しても、羽生の優勝はほぼ確定的で、GPFで初優勝していた彼は五輪金メダリスト候補としてはニューフェイスだったので、日本のスケ連としてはある程度得点を盛って世界にアピールしたい、という気持ちがあったと思う。

ところが今季、男子はともかく、飛び抜けた選手がいない女子は盛りにくい。※1

フリー最終滑走の宮原は素晴らしい演技だったが、最後だったから多少得点の伸びは良かっただろうし、逆に最終グループ第1滑走だった本郷は少々不利だっただろう。

2人の滑走順が逆だったら順位が入れ替わる、少なくとももう少し僅差での優勝だったかも……そのくらい微妙な採点だった。

 

しかし、今季の実力の拮抗ぶりを差し引いても、明らかに採点が厳しかったのは、それがこれから世界のトップで活躍する選手達へのメッセージだったのではないかと思う。

今季から国際的にもジャンプの回転不足と、ルッツとフリップのエッジエラーの判定がことのほか厳しくなった。

グランプリシリーズでロシアっ娘たちに比べて日本女子がイマイチ得点が伸びなかったのは、回転不足とエッジエラーによるところが大きいと思う。

今大会の厳しい採点は、これから世界で戦う若い選手たちに向けた審判団からのメッセージだ。

五輪の翌シーズンで、今まで日本のフィギュア界を支えてきたベテラン勢が男女共に引退・休養というタイミングを考えても、そういうメッセージを発するには絶好のタイミングだと思う。

ジャンプだけでなく、スピン・ステップのレベル判定もかなり厳しかった。

四大陸や世界フィギュアの代表権を獲得した選手たちは、このメッセージを重く受け止めて、国際大会で花開かせてくれることを期待したい。

 

※1:ちなみに男子の宇野の得点は多少盛られていた感があったが、これは世界ジュニアへのアピールかも知れない。宇野の場合、まだ一応ジュニア枠なので、優勝しない限りは順位が上がっても代表枠争いには影響しないという思惑が働いたと思われる。